栄養・医療ネグレクトの疑いがある場合の対処について|病院・医療法務|法律事例/判例集

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病院・医療法務

2015/02/20
栄養・医療ネグレクトの疑いがある場合の対処について
判例概要
栄養・医療ネグレクトの疑いがある場合の対処について
被告である病院は、横浜市の児童相談所に対し、一郎くんについて、不適切な養育が行われている可能性が高いとして児童福祉法25条に基づく通告(本件通告)をしました。

同児童相談所長は、一時保護決定をした後、同決定を解除した上で再び一時保護決定をし、同決定に基づいて児童相談所において一郎くんは保護されていました。しかし、保護中に、一郎くんは、卵アレルギーがあったにもかかわらず、卵を含むちくわを食べ、死亡してしまいました。
そこで一郎くんの両親が、病院に対しては、本件通告が、横浜市に対しては、本件通告によってなされた本件一時保護決定が違法であるとして、損害賠償請求をしました。
判旨本件通告は、病院が、平成18年6月16日、児童相談所の長に対し、亡一郎について、「ネグレクト(疑い)」、「ビタミンD欠乏性くる病」、「家族の食事に対する強いこだわりから児に対して適切な栄養を与えることが出来なかったためにくる病発症に至ったと考えられ、結果として不適切な養育が行われていた可能性が高い。」ことを虐待の具体的な内容とし、児童福祉法25条に基づくものとして行ったものである。

児童福祉法25条は、「要保護児童を発見した者は、これを(中略)児童相談所(中略)に通告しなければならない。」と規定し、同法6条の3第8項は、要保護児童を「保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認められる児童」と規定しており、児童虐待を受けた児童も要保護児童に含まれると解される。
このことは、児童虐待防止法6条1項が「児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを(中略)児童相談所に通告しなければならない。」と規定し、同条2項が「前項の規定による通告は、児童福祉法25条の規定による通告とみなして、同法の規定を適用する。」と規定していることからも明らかである。
そして、児童虐待防止法6条1項の通告は、児童虐待を受けたと思われる児童を発見した場合に速やかに行われるべきものであるから、発見者が主観的に児童虐待であると認識したときは同法上の通告義務を負い、虐待の事実がないことを認識しながらあえて通告をした場合及びそれに準ずる場合を除き、通告をしたことについて法的責任を問われることはないというべきである。

また、児童虐待とは、保護者がその監護する児童について、児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食その他の保護者としての監護を著しく怠ること(児童虐待防止法2条4号)に当たるような行為をいい、いわゆるネグレクト(栄養ネグレクト及び医療ネグレクト等)もこれに該当する。
そして、医療ネグレクトは、医療水準や社会通念に反して児童にとって必要かつ適切な医療を受けさせないことをいい、栄養ネグレクトは、児童にもたらされている栄養状態そのものをいうのであって、いずれも保護者の主観や認識の有無によってその成否が左右されるべきものではない。
見解児童福祉法25条は、主体を制限することなく、要保護児童を発見した者について、福祉事務所又は児童相談所への通告を義務づけています。また、病院のような業務関係上児童の福祉に関係のある者については、児童虐待を発見しやすい立場にあることを自学し、児童虐待の早期発見に努めることが義務づけられています。
児童福祉法25条に基づいて通告を行った場合、たとえ誤りであったとしても通告者は、民事上、刑事上の責任を負いません。

本件裁判は、児童福祉法25条及び児童虐待の防止等に関する法律6条1項の通告について児童虐待児を発見した場合には、速やかに行うべきであるとして、虐待の事実がないことを認識しながらあえて通告をした場合又はそれに準ずる場合を除いて通告をしたことについて法的責任を問われないとして、通告が違法とならない範囲を広く解釈しています。また、医療ネグレクトや栄養ネグレクトについて、医療水準や、社会通念を基準とし、保護者の主観や認識の有無によってその成否は左右されない旨述べています。親が良かれと思ってしていることであっても、ネグレクトに当たるかは客観的に判断されるとしています。

児童虐待は、どのような理由があっても許されるものではありません。医療従事者としては、発見後速やかな通告が望まれることは、本裁判のいうとおりです。もっとも、通告により、児童が一時保護等になることは、児童を保護者から強制的に引き離し、保護者の監護権等に対する強い制約となります。

したがって、通告を行うに当たっては、虐待を疑わせる根拠、児童の状態、保護者とのやり取りを詳細に証拠化しておくことが望まれます。
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