- 2016/02/11
- 医療法人の定款に残余財産を払込出資額に応じて分配する旨の規定がある場合における,同定款中の退社した社員はその出資額に応じて返還を請求することができる旨の規定の解釈(最高裁判所平成22年3月4日判タ1327号75頁)
事例 | 医療法人に出資した者の相続人Xが、医療法人Yに対し、出資金の返還等を求めた事案。
Yについては、厚生労働省の定款例に従い、定款に以下の条項が定められていた。 ア Yの社員は,総会の決議等によるほか,その死亡によって社員の資格を失う(6条)。 イ 退社した社員はその出資額に応じて返還を請求することができる(8条)。 ウ Yの目録に記載された一定の財産を基本財産とし,特別の理由がある場合にされる総会の決議によらなければ,基本財産を処分してはならない(9条)。また,Yにおいて剰余金を生じた場合は,総会の決議を経てその全部又は一部を基本財産に繰り入れ又は医療機器等の購入に充てる(15条)。 エ Yが解散した時の残余財産は,総会の決議を経て,かつ,県知事の認可を得て払込出資額に応じて分配する(33条)。 |
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判旨 | 定款33条の「払込出資額に応じて」の用語と対照するなどすれば、本件定款8条は、出資社員は、退社時に、同時点における法人の財産の評価額に、同時点における総出資額中の出資社員の出資額が占める割合を乗じて算定される額の請求をすることができることを規定したものと解するのが相当である。 ただし、 出資金返還請求権の額、法人が過去に和議(注:現在の民事再生)の申し立てをしてその後再建されたなどの財産の変動経緯とその過程において社員らの果たした役割、当該医療法人の公益性・公共性に観点等から、請求が権利の濫用により許されない場合があり得る。 |
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見解 | 第1審前橋地方裁判所(前橋地判平18.2.24金判1310号40頁)は,退社した社員は医療法人の財産に対して,出資割合に応じた額の請求をすることができるという出資割合説を採用 原審東京高等裁判所(東京高判平20.7.31金判1310号32頁)は,出資した額の限度でのみ請求をすることが出来るという出資額説を採用。 最高裁は,Yの定款の用語との対象などから定款の定めは,出資割合説により解釈すべきとした。 |
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備考 | 出資割合説によるか,出資額説によるかは定款の規定により判断されるところ,本件においてYは厚労省のモデル定款を使用していたため,同様にモデル定款を使用している医療法人に広く影響を与える判決である。 |
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