解任された医療法人理事の残存任期報酬の扱い(札幌地裁平成24年4月18日ジュリスト1480号107頁)|病院・医療法務|法律事例/判例集

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病院・医療法務

2016/02/23
解任された医療法人理事の残存任期報酬の扱い(札幌地裁平成24年4月18日ジュリスト1480号107頁)
事案の概要
Yは、札幌市a区内で「b病院」(以下「本件病院」という。)を経営する医療法人社団である。
Xは、平成17年6月、本件病院の総務課長として被告に雇用され、その後事務次長となった後、平成20年2月25日、被告の理事に選任された者であり、被告の社員でもあった。
Xは、平成20年5月1日、Yの理事に再任された。その際の任期は、同日から平成22年4月30日までの2年間であった。
Xは、平成21年3月26日、医療法人社団c会d外科胃腸科(以下「訴外c会」という。)の理事に選任され、その後、Y(Y主張による)ないしY理事長(X主張による)から、訴外c会が経営する「d外科胃腸科」の業務を支援するようにとの指示を受けた。
Xは、平成22年5月1日、被告の理事に再任された。その際の任期は、同日から平成24年4月30日までの2年間であった。
Y被告は、平成22年8月30日に開催された臨時社員総会において、原告を被告の理事から解任する旨を決議した(以下、同決議による原告の解任を「本件解任」という。)。
XのY理事としての報酬は、月額67万円と定められており、Yは、Xに対し、平成22年7月分までの報酬を支払ったが、本件解任後、報酬を支払っていない。

Xは、正当な理由なく理事から解任されたと主張して、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法人法」という。)70条2項若しくは会社法339条2項の適用、準用ないし類推適用、又は民法651条2項ただし書の適用による残存任期の報酬相当の損害賠償を求めた。
Yは、本件解任には正当な理由、ないしやむを得ないある旨主張した。
判旨非営利目的の法人の一般法たる地位を有する一般法人法は、その70条1項において、「役員及び会計監査人は、いつでも、社員総会の決議によって解任することができる。」と定め、同条2項において、「前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、一般社団法人に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。」と定めている。これは、一般社団法人の社員に理事等の解任の自由を保障する一方、理事等の任期に対する期待を保護し両者の利益の調和を図る趣旨で一種の法定責任を定めたものであると解される。
 他方、医療法人社団は、医療法を設立根拠法とするものの、非営利目的の法人であり、また、その理事等については任期が定められるのであって(医療法46条の2第3項参照)、解任の自由の保障と理事等の任期に対する期待の保護との調和を図る必要のあることは、一般社団法人と同様であるということができる。
 そうすると、医療法人社団の理事の解任については、一般法人法70条1項及び2項の規定が類推適用され、その結果、いつでも、社員総会の決議によって解任することができるものの、解任された理事は、その解任について正当な理由がある場合を除き、医療法人社団に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができるものと解するのが相当である。
備考医療法人社団の理事が任期満了前に解任された場合について、一般法人法第70条2項の類推適用により、解任に正当な理由がない場合には、解任によって生じた損害を賠償することができる旨判示し、残存任期の報酬相当額について請求を認めたものであり、一般法人法第70条第2項の規定につき、同様の規定を持たない特別法上の法人に類推適用されるか否かが問題となった事案である。
地裁の判例であり、下記のような批判もあるため、下級審において異なる判決がなされる可能性は否定できない。
批判ジュリスト1480号第109頁には、下記1ないし3の批判を述べた上で、民法651条2項の枠組みに従い、相手方に不利な時期(受任者が当該契約の継続を予定して、他の収入を得る機会を失ったような場合を想定)に解除をしたのかどうか、当該時期の解除ゆえに損害が生じたのかどうかという枠組みを基礎とすべきとする。
医療法人法が、一般法人法の規定に相応する規定を有しない場合、意図して規定を置いていない可能性が有る。
また、医療法は、一般法人法の規定を準用するための条文があるが、当該規定に一般法人法70条2項が列挙されていないのは、意図的にそれを外したと考えることもできる。
医療法人法上、理事に任期が定められる点を類推適用の根拠としているが、その前提論理は必ずしも明確ではない。
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