- 2016/02/25
- 建設協力金の返還義務が,建物の所有権を譲り受けた新所有者に承継されないとした事案(最高裁判所昭和51年3月4日民集30巻2号25頁)
事実の概要 | Xは、昭和38年6月15日訴外Aから同人所有の本件建物(ビルデイング)の2階部分176.85平方メートル(以下「本件貸室」という。)を、期間を5年間、賃料1か月23万50円、敷金138万300円、保証金664万4700円の約定で賃借し、Xは昭和38年7月1日までに右敷金及び保証金を訴外Aに差し入れ、本件貸室の引渡を受けた。
右敷金及び保証金に関する特約として、本件賃貸借契約の期間満了の際、Xが本件貸室の明渡を完了し、かつ、右契約上の債務を完済したときは、訴外Aは直ちに前記敷金及び保証金を上告人に返還しなければならず、ただ、Xは、(イ) 右契約成立時から2年間はやむを得ない事情がない限り解約することができず、(ロ) 2年経過後は正当な理由がある限り解約することができるが、訴外Aは、右(ロ)の場合には直ちに敷金及び保証金を返還しなければならないのに反し、(イ)の場合には、敷金については、直ちにこれを返還し、保証金については、本件貸室の次の入居者が決定し、その者から保証金が差し入れられるまで、六か月を限つてその返還を留保できる旨約された。 本件保証金に関する約定は本件賃貸借契約書の中に記載されていたが、右保証金は、Aが本件建物建築のために他から借り入れた金員の返済にあてることを主な目的とする、いわゆる建設協力金であつて、本件賃貸借契約成立のときから5年間はこれを据え置き、6年目から毎年日歩5厘の利息を加えて10年間毎年均等の割合でAからXに返還することとされている。 Yは昭和43年5月9日競落によつて本件建物の所有権を取得し、同年6月5日その旨の登記を経由した。 Xは,本件賃貸借契約を解除し,Yに対して保証金の返還を求めた。 |
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判旨 | 以上の事実関係に即して考えると、本件保証金は、その権利義務に関する約定が本件賃貸借契約書の中に記載されているとはいえ、いわゆる建設協力金として右賃貸借とは別個に消費貸借の目的とされたものというべきであり、かつ、その返還に関する約定に照らしても、賃借人の賃料債務その他賃貸借上の債務を担保する目的で賃借人から賃貸人に交付され、賃貸借の存続と特に密接な関係に立つ敷金ともその本質を異にするものといわなければならない。 そして、本件建物の所有権移転に伴つて新所有者が本件保証金の返還債務を承継するか否かについては、右保証金の前記のような性格に徴すると、未だ新所有者が当然に保証金返還債務を承継する慣習ないし慣習法があるとは認め難い状況のもとにおいて、新所有者が当然に保証金返還債務を承継するとされることにより不測の損害を被ることのある新所有者の利益保護の必要性と新所有者が当然にはこれを承継しないとされることにより保証金を回収できなくなるおそれを生ずる賃借人の利益保護の必要性とを比較衡量しても、新所有者は、特段の合意をしない限り、当然には保証金返還債務を承継しないものと解するのが相当である。そうすると、Yが本件保証金返還債務を承継しないとした原審の判断は、正当として是認することができる |
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見解 | 最高裁判所が初めて建設協力金としての保証金について見解を示した。 「建物(ビルディング)の賃貸借に際して授受される保証金の性質については、必ずしも定説があるわけではないが、いわゆる建設協力金としての保証金(名古屋地判昭40・4・27判時419号45頁、大阪地判昭44・5・14下民集20巻5号354頁)が大部分であり、稀に敷金にあたる保証金(東京地判昭45・6・4判時612号63頁)が見られるところ、本判決によると、本件保証金は右建設協力金であつて、賃貸借とは別個に消費貸借の目的とされたものであり、建物の所有権を譲り受けた新賃貸人は当然に旧賃貸人の保証金返還債務を承継するものではない、というのである。」 |
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備考 | 保証金の問題については,必ずしも定説があるわけではないことから,契約時の定め方にも左右されるため,契約書作成の際には慎重に検討する必要がある。 |
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