- 2017/08/02
- 都教委(八王子私立中学校・国歌斉唱不起立)事件
東京地方裁判所平成24年4月19日労判1056号58頁
懲戒処分の過重について考える
事件の概要 | Xは,東京都八王子市立A中学校(以下「本件中学校」という。)に勤務していたが,平成22年3月31日付けで退職をした。Xは,本件中学校夜間学級の平成18年度から21年度の各卒業式において,本件中学校長から,事前に,国歌を斉唱することを命じる職務命令を受けていた(以下「本件各職務命令」という。)にもかかわらず,国歌斉唱時に起立しなかったことが地公法32条,31条に違反するとして,東京都教育委員会(以下「都教委」という。)により,地公法21条1項1号から3号に基づき,平成18年度に戒告(以下,「第1処分」という。),平成19年度に減給10分の1を1ヶ月間(以下「第2処分」という。),平成20年度に減給10分の1を6ヶ月間(以下「第3処分」という。),平成21年度に停職1か月(以下「第4処分」という。また,以下第1処分から第4処分を合わせて「本件各処分」という。)の懲戒処分を受けたことから,Y(東京都)に対して,第1処分から第3処分が違法であると主張し,同処分の取り消しと,精神的苦痛に対する慰謝料等及び遅延損害金の支払いを求め訴えを提起した。その後Xは第4処分についても同様の訴えを提起し,両訴訟は併合された。
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判旨 | 第2処分,第3処分,第4処分の取り消し。その余の請求は棄却 本件各職務命令の適法性を認定→Xの不起立は職務命令違反にあたる。 職務命令違反及び生徒の模範たるべき立場にあるにもかかわらず,本件各職務命令に違反したことは,信用失墜行為にあたり,懲戒事由が認められる。 「公務員に対する懲戒処分について,懲戒権者は,懲戒事由に該当すると認められる行為の原因,性質,態様,結果,影響等のほか,当該公務員の上記行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等,諸般の事情を考慮して,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定する裁量権を有しており,」その判断は,それが社会観念上著しく妥当性を欠き裁量権の逸脱濫用が認められる場合に,違法となる Xに職務命令違反がある以上,懲戒処分の中で最も軽い戒告を選択し第1処分は,裁量権の逸脱濫用は認められず,違法とは言えない。 Xの本件各不起立行為は,同人の歴史観ないし世界観に起因するものであり,また不起立の性質は積極的な妨害等の作為には当たらないのであるから,それが教職員に給与上の不利益,将来の昇級への影響に加え,毎年必ず2回以上行われる式典であることから懲戒処分が加速度的に累積加重され,短時間で反復継続的に不利益が拡大していくことを考慮すると第1処分の後に第2ないし第4の不起立に対して戒告を超える処分の選択が許されるのは,過去の非違行為による懲戒処分等の処分歴や不起立前後の態度等に鑑み,学校の規律や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から当該処分を選択することの相当性を基礎付ける具体的な事情が認められる場合であることを要する。 第2処分は,過去の懲戒処分の対象とされた非違行為と同様の非違行為を再び行った場合には量定を加重するという処分量定方針に従いなされたものであるが,平成19年度の不起立行為は,積極的に式典を妨害する行為態様ではなく,当該1回のみに限られ,当該行為の前後の態度に処分の加重を根拠づけるべき事情もうかがわれないのであるから減給を選択した第2処分は,処分の選択が重きに失し,裁量権の範囲を超え違法である。第3処分及び第4処分は,第1,第2処分を前提とし,処分量定方針に基づいた懲戒処分であるから,同様に裁量権の範囲を超えて違法である。 |
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見解 | 職務命令に違反した不起立行為は懲戒事由にあたるため,もっとも軽い戒告処分は裁量権の範囲の逸脱はないとしつつ,非違行為を更に実行した不起立行為については,過重を根拠付ける事情が存在しないことを理由に1か月の減給処分を裁量権の逸脱に当たると判断した。 |
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備考 | 懲戒処分を行う際,軽い処分を行っても効果がなかった場合に,より重い処分が認められることが多い。 本件も段階を踏んだ懲戒処分がなされているが,非違行為の態様,定期的に行われる行事における行為であるため,処分を加重すると加速度的に不利益が拡大していく点を挙げ,後の処分については,当該処分を選択することの相当性を基礎付ける具体的な事情が認められる場合であることを要するとの基準が示された。 解雇の事例ではないが,解雇の前段階の処分を考える際に参考になるものと思われる。 |
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