- 2017/08/03
- 東京都・都労委(三幸自動車)事件
東京地裁平成27年1月19日労判1115号50頁
事案の概要 | Aは、原告会社においてタクシー乗務員として稼働していた。平成22年4月26日、27日に行われた業務連絡のための会で、原告側から従業員に対し、退職金規程を廃止し、中小企業退職金共済の加入者はその解約により、未加入者は原告からの現金支給により、いずれも清算する旨の説明があったため、Aは被告補助参加人(以下「組合」という。)に加入したことを原告に対して公然化した上で、団体交渉に出席し、ホームページに記事を掲載したり、ビラを配布したりして組合加入の呼びかけなどを行っていた。
原告は、平成23年9月12日付書面により、同月16日付で、Aを解雇する旨通知した(以下「本件解雇」という。)。 原告の主張する解雇理由は以下のとおりであった。 ①Aが就業時間中に許可なく労働組合活動をしたこと ②社外秘文書をホームページに掲載したことによる会社の機密漏洩 ③虚偽の内容のビラ配布による名誉毀損 ④原告役員に対する暴行を 組合は、本件解雇は、原告が組合及びその活動を嫌悪し、反組合的言動を繰り返した上でAを不当に解雇することにより原告から組合を排除しようとした不当労働行為であるとして、東京都労働委員会(以下「都労委」という。)に対し、本件解雇を撤回し、Aを現職に復帰させ、本件解雇の翌日から復職までの間の賃金相当額を支払うこと、謝罪文を交付及び掲示することを求めて救済申立て(以下「本件申立て」という。) をした。 平成25年7月2日,都労委は,本件解雇はAが組合員であること及び労働組合の正当な行為をしたことを理由とした不利益取扱いに該当するとともに、Aを排除することにより原告における組合の影響力を排除しようとした支配介入にも該当するとして、本件解雇の撤回、Aの原職への復職、本件解雇の翌日から原職復職までの間の賃金相当額の支払並びに本件解雇が不当労働行為と認定されたこと及び今後このような行為を繰り返さないよう留意することを記載した文書の組合への交付及び原告本社営業所内での10日間の掲示を命ずる命令(以下「本件命令」という。) を発した。 原告は、本件命令を不服としてその取消しを求めた。 |
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判旨 | 請求棄却 1 裁判所は、原告の組合に対する態度から、原告が組合活動に理解を示して公平に対応していたとは評価しえず、組合及びその組合活動ならびに組合員であるAを嫌悪していたと推認するのが相当であると認定した上で、以下のとおり解雇の相当性を否定した。 「(1) 解雇理由1(第2回団体交渉へのAの出席が重大かつ悪質な就業規則違反であること)について 原告の就業規則25条6号及び87条23号は「就業時間中許可なく労働組合活動をしたとき」を解雇事由として定めている…ところ,原告は,就業時間中の団体交渉への出席が就業規則違反である旨の指摘を受けながらも Aが第2回団体交渉に出席し続けたことは重大かつ悪質な就業規則違反に該当する旨主張する。 しかし, Aの就業日に開催された第1回団体交渉に Aが出席したことについて,第1回団体交渉の場では原告から特に指摘はなく…,再度 Aの就業日に開催された第2回団体交渉に至って原告から初めて職務専念義務上問題がある旨の指摘がされた…との経過からすれば, Aは,第2回団体交渉に出席することにつき,原告側に異議がなかったと考えたとしても一応の理由があり,原告側に出席を許可する意思がないことを認識しながら,あえて許可を得ないまま第2回団体交渉に出席したとまでは認められない。そして,第2回団体交渉の場で Aの出席の取扱い等について結論は出ず, Aは原告から退席を命じられることもなくそのまま第2回団体交渉に出席し続けていたこと, Aが当日の業務日報に休憩時間として「12:30~15:10」と記載し,これについて原告から特に指摘はなかったこと,その後の団体交渉は, Aの就業日でない日に行われていたこと…からすれば,結局,第2回団体交渉への Aの出席は Aの休憩時間中に行われたものとして処理され,第3回団体交渉以降の団体交渉への Aの出席については,特に問題が生じていなかったと認めることができる。そうすると,第2回団体交渉への Aの出席が形式的に上記就業規則の規定に違反していたとしても,上記のとおり,原告の指摘を受けて第3回団体交渉以降の開催時間は就業規則上の問題が生じないよう配慮したものに改められ,また,第2回団体交渉への Aの出席も,本来自由な利用が可能な休憩時間(労働基準法34条3項)に行われたものであることからすれば,原告が主張するように重大かつ悪質な違反行為であると評価することはできない。 よって,第2回団体交渉への Aの出席は,重大かつ悪質な就業規則違反であると評価することはできないから,解雇を相当とする事由には当たらないというべきである。 (2) 解雇理由2(ホームページに原告の機密情報を掲載し続けたことが重大かつ悪質な就業規則違反であること)について 原告の就業規則25条6号,44条2号及び87条16号は,会社の秘密を漏らすことを解雇事由として定めている…ところ,原告は, Aがホームページにおいて長期間にわたり原告の機密を漏らしたことが重大かつ悪質な就業規則違反である旨主張する。 確かに,… Aは,平成22年7月4日頃,原告の組合に対する回答文書のほか,原告の賃金体系や手当の計算方法等に関する具体的な説明文書,原告と労働代表との間で締結された定年後継続雇用に関する協定書等を,何らの加工をすることなく,また,原告の従業員や組合員に限って閲覧することができるようにアクセス制限をかける等の措置をとることもなく,ホームページに掲載しているところ,原告の組合に対する回答文書については,原告において公開を予定して作成したものとは考え難く,また,具体的な賃金体系や手当の計算方法,定年退職後の具体的な労働条件については,会社の内部情報として取り扱われるのが一般であるから,上記のような情報を第三者に閲覧可能な状態に置くことにより,原告が不測の不利益を被る可能性を否定することはできない。したがって,上記のようなホームページへの掲載行為は,不適切な行為であったといわざるを得ない。 しかし,ホームページへの上記掲載行為に関し,平成22年10月7日開催の第2回団体交渉では,組合がホームページの内容を事前に確認していたか否かが主として問題とされていたのであり,会長から…明確な削除指示まではなく…,その後,同年11月22日に至って,社長及び本部長から Aに対し,ホームページについて口頭注意とともに直ちに完全に削除するように指示がされているところ, Aは,その翌日である同月23日にはホームページを閉鎖し…,組合及び支部も,平成23年3月9日付けの原告に対する書面において,ホームページへの上記掲載行為につき配慮が不十分であったことを認める旨の記載をしており…,また,上記閉鎖から本件解雇までの間に, Aが原告の内部情報又は機密情報に該当し得る情報を新たにウェブサイトなどで公開したと認めるに足りる証拠はない。以上の事情に照らせば, Aに就業規則の規定を遵守する意思がないと評価することはできないというべきであり,原告が実際に不利益を被ったとの事情もうかがわれないことを考え併せれば, Aによるホームページへの上記掲載行為が解雇に相当する重大な非違行為であると認めることはできない。 (3) 解雇理由3(虚偽の内容のビラにより原告の名誉が毀損されたこと)について 原告の就業規則25条6号,44条2号及び87条16号は,「会社の名誉を毀損」する行為をしたことを解雇事由として定めているところ…,原告は,虚偽の内容が記載された12月10日付けビラが原告の従業員以外の者にも配布されたことにより原告の名誉が毀損された旨主張する。 確かに,12月10日付けビラには「賃金減少8000円はどこからも補填できません。」との記載があるところ Aが同ビラを作成する以前に行われた8月明け番会において,原告は,中退共による退職金の解約に合意した従業員には1か月当たり2000円の特別調整金を支払う旨を発表しており…,Aもこれを認識していたものと考えられるから,上記記載は、Aが当時認識していた事実を正確に記載したものとはいい難い。 しかし,上記2000円の特別調整金の支払を前提としても,6000円にとどまるとはいえ賃金が一定程度減額することに変わりはなく,その数字も12月10日付けビラで摘示された「賃金減少8000円」と比較して金額的に大きくかけ離れているわけでもない。そうすると,同ビラの記載は,事実関係において重大な誤りを含んでいるとまではいえず,賃金の減額に関し原告が一部を補填するとの点に触れていないことをもって,解雇事由である「会社の名誉を毀損」する行為に当たるものと評価するのは相当でない。なお,原告は,同ビラが原告の従業員以外にも配布された旨主張するが,これを認めるに足りる的確な証拠はなく,同ビラの配布の態様が正当な組合活動の範囲を逸脱したものと評価すべき事情もうかがわれない。 よって,12月10日付けビラの記載やその配布行為が解雇理由に当たると認めることはできない。 (4) 解雇理由4(Aの本部長に対する暴行行為の悪質性)について 就業規則25条6号及び87条10号では「他人に対して危害を加え又は故意にその業務を妨げたとき」を解雇事由として定める…ところ,原告は,平成23年4月30日にAの腹部が本部長の腹部に接触したことがAによる暴行行為である旨主張する。 …平成23年4月30日に Aの腹部と本部長の腹部とが接触した事実を認めることはできるが,本部長が転倒していないことや,Aが上記接触の直後に本部長に対して「お腹がちょっと当たっただけでしょ。」と言い,また,その約2週間後に行われた5月明け番会でも「お腹がポコンと当たっただけだ。どこが暴行行為なのか。」と述べていることなどの事情に照らせば,「暴行」と評価するのを相当とする程度の接触が生じていたとは考え難いというべきである。なお,原告は,上記接触についてのA及び組合の回答及び説明が不自然かつ不合理に変遷している旨主張するが,上記のとおり,Aは,上記接触直後もその約2週間後の5月明け番会でも,腹部が接触した事実は認めるものの,軽微な接触であるとして,暴行行為であることは否定していたのであり,また,第4回団体交渉(前半)において,G委員長も,本部長が「法律的に暴行に当たる」などと繰り返し主張するのに対して,腹部の接触自体は認めつつ,「法律的に暴行に当たるかどうかは判断できない。組合としては物理的な有形力の行使はないと認識している。」旨述べているのであり…, Aも組合も一貫して暴行との評価を否定しているものと認められるから,原告の上記主張は理由がない。また,原告は, Aが本部長の「触るなよ」との警告を無視して本部長に体当たりした旨も主張するが,本部長が Aに対し「触るなよ」と警告した事実を認めるに足りる的確な証拠はない…。 以上のほか,上記接触が「暴行」と評価するのを相当とする程度のものであったことをうかがわせる事情は存しないから,上記接触をもって解雇理由に該当するものと認めることはできない。 (5) 本件解雇の相当性について 原告は,平成22年11月22日に Aに対し,解雇理由1及び同2に係る就業規則違反行為について処分保留である旨を告知していたにもかかわらず, Aが解雇理由3及び同4の就業規則違反を犯している点で,「度々懲戒処分をうけたにもかかわらず,尚改しゅんの見込みがないとき」(就業規則第87条第5号)に準じる行為があったと認定することができるから,本件解雇は相当である旨主張する。 しかし,前記(1)から(4)までにおいて検討したとおり,原告が主張する解雇理由1から同4までにつき,懲戒処分を実際に受けたわけでもない上,いずれも解雇理由に足りるものとは認められない以上,「改しゅんの見込みがないとき」に準じる行為があったとも認められないことは明らかであるから,原告の主張は理由がない。 したがって,本件解雇は,客観的に合理的な理由を欠くものというほかなく,その相当性を認めることはできない。」 2 その上で、裁判所は、本件解雇はAが労働組合の組合員であり、労働組合の正統な行為をしたことを理由に原告がAに対してした不利益な取り扱いであると認めることができるから、労働組合法7条1号の不利益取扱いに該当するとともに,本件解雇により原告の唯一の組合員であるDが解雇された結果,原告が組合の関与を受けなくなる点で,同条3号の支配介入にも該当すると認めることができるとして、原告の請求を棄却した。 |
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見解 | 本件は、会社が組合及びその組合活動ならびに組合員である従業員を嫌悪していたことを推認した上で、会社による解雇理由は解雇事由に該当しないと判断し、使用者による組合員に対する当該解雇は当該従業員が会社の唯一の組合員であり、団体交渉等の組合活動を積極的に行っていたことを理由に行われたものと推認するのが相当であり不利益取扱い及び支配介入に該当するとした。 |
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備考 |
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